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もし夢の世界が現実より楽しくなったなら? [小説]

 昨日、久々に懐かしいヒトの夢を見た。学生時代に好きだった女の子の夢だ。二十年ぶりに見る彼女は相変わらず美しく、それでいてちょっとクールなつれない態度も変わっていなかった。せっかく食事に誘い出したのに、いざ逢ってみると別の用ができたということで、すぐに帰ろうとするではないか。私は必死に次回逢う約束を取り付けようと、アプローチを試みる・・・・。

 夢は、ここで覚めた。なんで今頃こんな夢を見るのか理解できません。別に今でも未練があるとか、秘めたる想いがあるわけでも全然ないですよ。(心理学者風情に分析させると、そんなこと言われそうだけど)でもね、もし毎日、同じ夢を見ることになったとしたら、どうでしょう? しかも、夢は今日の続きで、ストーリーとして確実につながっているとしたら? 夢の世界の動きは刺激的だから、明日の展開がどうなるのかワクワクして、現実に生きることよりも眠ることの方が楽しみになっていくかもしれない・・・・。

 エドモンド・ハミルトン「フェッセンデンの宇宙」(河出書房新社)というSF短編集のなかにある「夢見る者の世界」が、まさにそんなストーリーなのです。主人公は、さえない保険会社の事務屋のヘンリー・スティーブンス。結婚もし、それなりに安定した生活を送っているのだが、人生に夢も失っている。それに対して、毎日必ず夢の中で現れる世界は、砂漠の中でさっそうと民族間の闘いを指揮する男・カールカン。さえないサラリーマンは、夢の中ではスーパーヒーローに変身してしまうのだ。無敵の軍隊を自ら統率し、敵国の絶世の美女姫を奪い取り、祖国統一のために奔走する日々……。

 ヘンリーが見る夢は、いつもカールカンとして生きる世界であり、実にスリリング。必ず、話につながりがあり、あまりのリアルさ故に、どちらが現実で夢なのか、だんだん理解しがたくなってくる。それどころか夢の世界に早く入りたくて、仕事もそっちのけで夕方から床に就くという異常な生活に。しかし、やがてカールカンの世界にピンチがやってくる。油断した隙に反乱軍が毒矢を使って、我が城は壊滅的打撃を受けたのだ。カールカン、最大のピンチ。敵はもはや、目の前で最後の総攻撃に備えている。もし夢の中の彼の国が滅びてしまったら、夢を見ているはずの自分=ヘンリーはどうなってしまうのだろう?

 夢と現実という、誰もが体験したことのあるテーマを元にして、実に面白い切り口でまとめた小編です。こんな小説を読んだから、変な夢を見たのかもしれないな(笑)。本書にはこの他にも「宇宙の外には、もしかして巨大な神がいて、我々の世界を監視しているのかもしれない」という子供が必ず空想する世界を具体化した名作「フェッセンデンの宇宙」や、眠りから目覚めると棺の中にいた"死んだはずの男"が目を覚まし、元の家族の元に帰ろうとした時に見てしまった悲劇を綴った「帰ってきた男」等々、エドモンド・ハミルトンという作家の奇想短編の名品が勢揃いしています。この手の本を読みすぎるとまた変な夢を見そうで良くないのですが、それでもやはり没頭したくなってしまう。ハミルトンの短編は、そんな不思議な魅力を持つ世界なのでした。


フェッセンデンの宇宙


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takam16

「未来をつくる図書館」やっと入手しましたぞ。
じっくり読んでじっくり感想を書きたいと思います.....
が、最近思うのが、買う本は安心してしまって
先送りの傾向があるので気をつけたいと思います。
http://takam16.ameblo.jp/
by takam16 (2005-04-13 21:33) 

pon-pu

日本の図書館関係で言えば、「浦安図書館にできること」なんて本もありましたね。今度、この本についても取り上げてみたいと思っています。takam16さんなら、もうご存じかもしれないけど……。なにはともあれ、素敵な図書館が近くにほしい。地元のそれはあまりに使えないので、今度、隣町の図書館デビューを狙っている私です。
by pon-pu (2005-04-13 22:29) 

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