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もしも貴方がガンにかかったら? [医学・サイエンス]

 定期検診で身体に異常が見つかり、癌であることを告知された時、ショックを受けないヒトはいないでしょう。しかし、ここで基本的な問題を一つ。

問1)格別気になる症状はないが、胃の内視鏡検査を受けたところ、直径1センチほどの早期癌が発見された。しかし手術もせずにそのまま放置した時、癌が10倍になる(致死量)までの平均的な期間はどれくらいか?
  a.1年   b.3年   c.5年   d.10年   e.15年以上

 この答えを知りたい方は、近藤誠「がん治療総決算」(文芸春秋社)をお読みになることをお勧めいたします。近藤誠といえば、10年も前に「患者よ、がんと闘うな」によって日本の癌治療のありかたの根本を問いかけるという革命的な主張を始めた慶応大学病院の現役放射線医。「抗ガン剤治療の90パーセントは無意味」「手術は無用」「ガン検診は無意味」という氏の意見は、当時の医学界から大反発をくらい、現在でも日本の癌治療の最高権威たちからは無視され続けています。

 本書は、そんな変わらぬ「白い巨塔」たる医学界においても、少しずつ変貌を遂げてきたガン治療の総決算をまとめた書。「がんとともに臓器を取り除く手術は避けよ」「知らなかったではすまされない抗ガン剤の副作用と毒性」「高額なのに根拠が薄い免疫法は詐欺も同然」と、相変わらず著者の意見は過激であり、多くの外科医たちを刺激しています。大学病院に所属する身でありながら、権威に対しても決して妥協しない持論を繰り返すこの態度こそが、近藤氏の真骨頂。(だからこそ未だに講師という肩書きなのでしょうが、昔から最も優秀な研究者は講師であるという真実もありますね)専門的な内容でありながら、臨床データに裏付けされた理論と歯切れ良い口調にのせられて、おそるべき医療現場の現実を知らされることになるでしょう。

 最近でこそ抗ガン剤の恐怖や、乳ガンにおける乳房の温存療法といった話題が一般的にも話題になるようになってきたけれど、まだまだ現実は宣告を受けた患者が選択できる治療法は皆無に等しいのが現実。本書が訴えていることは、ガン治療を放棄せよという単純なことでは決してなく、まず私たち自身がもっている癌に対する誤解を解くことから初めよということなのです。急性白血病や睾丸腫瘍のように治療が効果を上げる癌もあれば、乳ガンのように手術も放射線治療も治癒率は変わらない癌もある。ほとんどの臓器ガンに至っては、手術も様子見(無治療)も、実は生存率や寿命が変わらないという統計的データが実は世界的にも存在する。読後は、まさに私たちの癌に対する常識が一変することは間違いありません。

 ちなみに最初の質問の正解は、eの15年以上。症状がないのに手術をして胃を切除し、その後の人生に不便を感じながら生きるのか(術後の後遺症の可能性もある)、様子見という治療法で癌とともに共生する方法を選ぶのか。決定するのは医者ではなくて、患者自身がするべきです。癌を考えることは、すなわち私たちが自分の生き方を選択するということでもある。そんなことを考えさせられる、深みのある内容の一冊でありました。


がん治療総決算


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コメント 1

Youkimu

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by Youkimu (2006-01-13 02:13) 

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