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読んで楽しい、見て美味しい。 [小説]

 本の装丁というのは不思議なモノでして、本の内容とはまったく別なのはわかっているのに装丁の美しさだけで「面白ソー」と思えてしまう書物というのが、確かに存在します。読んでみて「だまされた」と思うこともしばしばなので、あまり装丁で判断するのもいかがなものかとわかってはいるのですが、やはり書店の店頭で出会った時の第一印象って、読者の購買意欲を刺激してしまいますよね。

 本日ご紹介するアレックス・シアラー「チョコレート・アンダーグラウンド」(求竜堂)は、そんな観点からするとまったくお見事な装丁デザインで成功を収めている書物の代表株。チョコレートをテーマとした小説に合わせて、外から中まで、チョコレートブラウン一色。見返しや、本扉、口絵ページ(本書では、登場人物の解説に使用)には、高級ブランドの贈答用包装紙のようなチョコレートブラウンの筋入りの用紙が使われている凝りようです。本文インキも、もちろんチョコレートブラウン!! 本をペラペラめくっていくだけで、甘ーい香りが書物から漂ってきそうなイメージを醸し出しているのです。

 この小説の中味はといいますと、舞台はイギリス。選挙で勝利をおさめた「健全健康党」が「チョコレート禁止法」なる法律を発令した、という事件から物語は始まります。健康に害のある甘い食べ物は、人類の敵である。これらを食べる悪癖を国民から抹殺させるために、違反した人には重罪を課すことにしたのです。まるでナチス政権下のドイツのように、チョコレート禁止違反者を探し出しては迫害し続ける健全健康党。震え上がる大人たち。しかし、そんなおかしな政治のあり方に反旗を翻したのは、チョコレートが大好物であるハントリーとスマッジャーという少年であった。彼らは、危険を冒してチョコレートを密造し、仲間達で楽しむための「地下チョコバー」を始めることにした……。

 という、なんともヨダレが出てきそうなストーリー(甘いのが苦手な人は、つらいだけか?)。そういえばロアルド・ダール「チョコレート工場の秘密」(評論社)も読むだけでチョコが食べたくなること必須の童話だったけど、本書もまさにチョコ好き必読の甘くてロマンあふれるファンタジーになっています。子供向けの童話でありながら、政治に対する風刺もたっぷりで、「悪が栄えるためには、善人が何もしないでいてくれればそれだけでいい」という18世紀イギリスの政治家エドマンド・パークの言葉を楽しいお話しの中に見事に盛り込んでいます。しばし童心に返って、子供の頃の純粋な心で読み進めることをお勧めいたします。

 ところで本書の装丁ですが、インクにもチョコの香りをつけたりしたら、もっと効果的だったし、バレンタインデーの贈り物にも最適の一品になったかも・・・・。ただですら美味しそうなのに、そこまでしたら本当に本書を食べるヒトが出てくるから駄目なのか(笑)?


チョコレート・アンダーグラウンド


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ace-cafe

僕もすっかり装丁に騙されて購入した一人です。
んでも、物語に引き込まれ一気に読んでしまった一冊でもありました。身近だけど改めて見ると、チョコってあんなに魅力的なんですね。

バレンタインにこの本をくれる女性と付き合ってたら、即結婚してますね僕は(笑)。
by ace-cafe (2005-04-06 19:49) 

pon-pu

本当に美味しそうな本ですよね、
甘い香りがついていないのが、なんだか不思議な気がするくらい…。
でもそんなことすると、印刷するするヒトが大変なんですね。
昔、実際にバラの香りが着いたインクでカタログを印刷していた職人さんが
気持ち悪くなって倒れたという事件がありました。
甘い匂いも、あまりに強烈で長時間かぎ続けると、
人の身体をおかしくしてしまうのですね。
格好だけチョコ風程度が、やはり正解なのかもしれません…。
by pon-pu (2005-04-07 16:50) 

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