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サルでもわかる大脳生理学の講義録 [医学・サイエンス]

 時は、少し遡ること2002年5月。科学雑誌「ネイチャー」に発表されたある論文が、全世界の人々を驚愕させることになりました。その内容とは、「ネズミの行動を、リモコンによって自動制御することに成功」というもの。いっときますけど、ロボットネズミのことではないですよ。実験動物である正真正銘の生きたネズミちゃんの脳に電極を埋め込んで、彼(彼女?)の意思を思うがままにコントロールするという、いうならば生きたラジコンネズミを作り出すことに成功したという記事です。この技術が進化すれば、動物ロボットはもちろんのこと、人間だって意のままに操れる日が実現するのも遠くないのかもしれません。素晴らしい? 恐ろしい? それぞれの感性によって、この成果に対する反応は違うかもしれませんね。

 池谷祐二「進化しすぎた脳」(朝日出版社)は、このようなエピソード満載で、大脳生理学の最先端についての知識をたんまりと教え諭してくれる本であります。こう聞くと、なにやら難しげな専門書に聞こえてしまいますが、さにあらず。実は本書は、ニューヨーク在住の高校生を相手に脳の講義をした時の講義録。現役バリバリの研究者である著者が、自由意思からアルツハイマー病の原因に至るまで、子供たちにも一つづつ噛んで含めるように丁寧にやさしく、そして大胆に説明してくれるという素晴らしい授業なのであります。「世界で一番受けたい授業」なんてテレビバラエティがあるけれど、あんなの目じゃないくらいの内容の濃さ。作者である池谷氏をして「私自身が高校生の頃にこんな講義を受けていたら、きっと人生が変わっていたのではないか?」と言わしめたほどの自信作。講義録なので、難しい内容も話し言葉で綴られているため、理系が苦手な人でもぐんぐん引き込まれていくことでしょう。

 「脳は場所によって役割が違う」「WHATの回路、HOWの回路」「視覚と聴覚のつなぎ換え?」「脳の地図はダイナミックに変化する」「こころとは、何だろう?」「世界は脳の中で作られる」「風景がギザギザに見えないわけ」「目ができたから、世界ができた」「哀しいから涙が出るわけではない」等々。講義は、脳の不思議、心の不思議と続き、世界とは何だろうか? という、ともすれば哲学的なテーマを科学的に分析することに挑戦していきます。かと思うと、後半での講義はさらに専門的になり、情報伝達の具体的メカニズムの解説までするという高度な内容。「神経の信号の実態はナトリウムイオンの波であり、スパイクが来ると神経細胞の隙間であるシナプスからドパミンやアドレナリン等の神経伝達物質が放出されて、筋肉を動かす信号が伝えられる。さらにその具体的なメカニズムを図式化すると……」なーんて記述にまでくると、ちょっとお手あげの読者も頻出でしょうが、全体的に見て脳の構造についての格好の科学入門書になっていることは間違いありません。最近流行の脳科学本に興味はあるけれど、ちょっと敷居が高くて…、とためらうヒトには本書からスタートすることを強くお勧めいたします。


進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線


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Youkimu

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by Youkimu (2006-01-13 02:11) 

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